エッセンシャルオイル(芳香成分)の化学組成はとても複雑で、数十から数百もの成分によって構成されています。
例えば、バラのエッセンシャルオイルには400以上もの含有成分があり、ジャスミンにいたっては500以上も存在します。しかしながら、それらのすべてはまだ解明されていません。
これらの芳香成分は、植物生命体の中でさまざまな役割を担っています。
他の植物生命体とコミュニケーションしたり、受粉のために昆虫などをおびき寄せたり、ときに害虫や微生物などから身を守るために、植物細胞内の代謝(二次代謝)の結果として産出されています。
このように多様な役割をもつ芳香成分はまた、人体の恒常性(ホメオスタシス)を維持する神経系、内分泌系、免疫系の働きをサポートし、生体防御機能、自己治癒力を向上させる性質をもっています。
このような<自然>の芳香物質の複雑性は非常に有益で、数種の芳香物質の組み合わせで作られる合成香料とは大きく異なります。
<自然>の芳香物質の複雑性のメリットは、微生物(バクテリア、ウイルス)においても発揮されます。芳香物質の構成が複雑であるために、微生物は植物に住み着くことができないのです。
また、<自然>が生み出す香りは収穫期やその年の気候などによって、若干の違いが生じることがありますが、ワインと同じように、いつも同じ香りを期待できるものではありません。
収穫期によってその組成が幾分か異なることも、その理由の1つです。
私たちは、嗅覚を通じてさまざまな香りを知覚します。
息を吸ったとき、香りの分子が鼻腔の上辺の嗅上皮に存在する何百万もの嗅細胞とそこに生える嗅毛という繊毛に接触し、この繊毛を通じて受容されます。
香りは嗅細胞において電気的インパルスに変換され、その情報は大脳辺縁系へと送られます。大脳辺縁系は、呼吸や体温調節、消化運動など、その他にも多くの生命維持に必須な体の働きを司っている部位で、感情が起こったり、記憶が蓄えられている場所でもあります。
まさにここで、誰かの放つ香りが好ましいか、好ましくないかが判断されるとともに、その香りに対する官能的感覚、あるいは性的感覚が制御されます。
この仕組みこそ、自然の香りが人の感覚に強い影響力を及ぼすことが可能な理由なのです。